コンビニ愛・プロローグside飛影

気になっている奴が、いる。


そいつは俺が仕事終わりに毎日通っているコンビニに突然現れた、アルバイト店員。

女にも見えるような整った容姿のその店員は、いつも花のような笑顔で出迎えてくる。
どこからどう見ても学生…それも、高校生の子供の笑顔に、俺はいつも落ち着かない気分にさせられていた。





俺の一日はいつも殆ど変わらない。

朝は毎日六時半に起き、仕事の支度をする。

珈琲を飲むための湯を沸かし淹れながら、顔を洗い歯を磨いてYシャツを着てスラックスを穿く…という作業を手早く行う。
そして珈琲を片手に新聞を読み、その他の準備をしつつ出勤までの時間を潰す。

朝食は作るのが面倒で…滅多に食べない。


7時半にセットしたアラームが鳴るとスーツの上着を羽織り、出勤。
職場である高校へと向かう。


男子高の教師である俺は、今年度からクラスを受け持つ事になった。
担当は一年C組。
まだまだ中学生気分の抜けない野郎ばかり32名。

浦飯幽助を始め、素行の悪い連中ばかりではあったが、同じ男同士で歳も他の教師と比べたら近いのもあり、 付き合いはそれほど難しくはない。
教師を敬う気持ちなど皆無の奴等だが、こんなものだと良い意味で諦め、呼び方も好きにさせている。(大抵は呼び捨てにしやがるが…。)


だが、身体と口だけは一人前の連中の相手は想像以上に疲れるものだった。それでも奴等はまだ子供なのだ。それなりに気だって遣う。
授業が終われば溜め息しか出ない。


そんな適度な疲労感を、充実した毎日な故と思い込ませながら学校を後にし、まず向かうところは実家だ。

実家には双子の妹と母親がいる。
女二人の家にいるのは何かと気まずく独り暮らしを始めたが、自炊など全くしない俺の健康を気に掛け、晩飯だけは実家で食べるように妹…雪菜に言われ、悪いと思いながらも甘えることにしたのだ。

妹と母親の賑やかな会話を聞き流しつつ晩飯を掻き込み、「ここに住めば良いのに」なんて呟きを背に実家を出るのが20時過ぎ。

後は一日の疲れをリセットするための酒を買いにコンビニへ寄り、自宅へと帰る。


これが俺の一日。
変わり映えのしない、それでもそれなりに上手くいっていると思っている、そんな毎日。


そんな平凡で充実した日々を送る俺の前に現れたそいつは、少しずつ、そして確実に俺の中へと入り込み、俺の日常と、そして俺自身を変えていった。

他人によって自分が変えられるという、酷く落ち着かない…だが不愉快ではない…何とも奇妙な感覚を植え付けながら。





何時ものように入ったコンビニ。
ただ、実家から自宅へと向かう途中にあるというだけで寄っていたその店に、新しい店員が入っていた。

何やら作業中で後ろ姿しか見えないが、ほぼ毎日通う店だ。新顔はすぐに判る。

だが、コンビニ店員が新しく加わるなどよくあること。別段気にすることもなく、何やら棚の商品の整理をしているその店員を横目に、いつもの行動を取った。

雑誌を眺め、酒とつまみをカゴに入れ、レジへと進む。

その途中、レジが無人であることに気付いた。
店内に客は俺一人。
もう一人も奥で作業中なのだろう。夜のコンビニではよくあることだ。
いつものようにカウンターで店員が気付くのを待とうかと思ったが、何となくその日は…近くでしゃがんで作業をしていた新人店員に声を掛けた。


「レジ」
そう声を掛けた俺に驚き顔を上げたその店員は、少し癖のある綺麗な長い髪を一つに束ね、一見男なのか女なのか判らない整った顔立ちをしていた。


歳は16、7といったところだろう。綺麗な顔をしてはいるが、教え子と同じような幼さを感じる。


「…っあ!はい!すみません!!」
一瞬そいつの動きが止まったような気がしたが、直ぐに立ち上がり慌ただしくレジへと向かって行く。
背格好と声でどうにか男だと判ったが、それでも女だと言われたら納得するような、そんな店員だった。


「マルメン」
カウンターにカゴを置き、店員にそう告げると目を見開きこちらを見た。

あぁそうか、初日でしかもまだ未成年だった。

「タバコ…23番」
自分に向けられた大きく綺麗な瞳に僅かに動揺し思わず目を反らしたが、それを表に出すことはなく、改めて判るように告げた。


「あ…はい!!すみません。」

先程と全く同じ言葉で謝罪をし、商品を手に取り、レジに通す。
その慌てた様子と、ぎこちない手付きが何だか微笑ましく思えた。

そして

「926円になります。」

「1000円お預かりいたします。」

「74円のお返しでございます。」

「有難うございます。また、お越しくださいませ。」

マニュアル通りの台詞を少し恥ずかしそうに言う表情が、
長めの前髪から覗く翡翠色の瞳が、
商品を手渡す細い指が、
やけに俺の目を惹いて焼き付き…その日眠りにつくその瞬間まで消えてはくれなかった。









「いらっしゃいませ」
柔らかな笑顔と共に接客用語の挨拶を投げ掛け、次の日も、その次の日もその店員は客である俺を出迎えた。

どうやら基本的には土日休みにしているのだろう、俺が行く平日はほぼ毎日そいつがいた。

だが、土日は友達と遊びたいから…ではなく、きっと休みの日にきっちり勉強をしているに違いない。…そう思えるほどそいつは真面目な優等生タイプに見えた。

背は俺より少し高いが、華奢な体格はお世辞にも男らしいとは言い難く、それに加えて整った顔立ちと長い手足は、そんじょそこらの女より綺麗なのではないかと思う。

その証拠に、この店員をはしゃいで見詰める女子高生たちに混じって、何やら熱い視線を送る男も何度か見かけた。


女みたいな容姿をしている、優等生。


これが、この店員に対する外見から得た俺の印象だった。

と同時に、そんな印象を持ってしまったことに戸惑った。こんな考えに至るほど他人を気にしたことなどなかったからだ。
だがそれは、自分の教え子と同じ年頃の、それもあまり見たことのないタイプの奴だからと自身を納得させた。





そんな慣れない戸惑いを感じ始めたある日、その優等生の店員が急に言葉を変えてきた。


「いらっしゃいませ。…お疲れ様です。」


変わったことを言うやつだと驚いた。長くこのコンビニに通っているが、こんな言葉を掛けられた事はない。

仕事帰りの客だからただそう言っただけだろうか。

思わず動きを止めてしまっている俺を他所に、店員は足早に通り過ぎて行った。

…顔が若干紅潮してるように見えたのは…
俺の気のせいか…?


店員の真意は判らない。…が、
そいつのその言葉は不思議と心に染み渡るようで…

酷く、心地がよかった。






それからは前にも増してその店員が気になるようになった。

自然と目が行く。

声がやけに耳につく。

行動が気になる。

自分の意思とは無関係に、神経がその店員へと向かう。


そして、あることに気付いた。


あの言葉は…他の客には言っていない…?


もちろん、確信しているわけではない。
自惚れるなと、自分自身に呆れもした。

もしかしたら、ただ俺が見てないだけで、別の時間帯に来る他の常連にも言っているのかもしれない。


と、そう考えたとき…
思ってしまったのだ。


見たくない…と。


あの言葉とあの笑顔は、俺だけに向けられている…そう、思いたいと。


この気持ちを何と呼ぶのか。
何故、こんなにも気になるのか…。

考えれば答えはすぐに導き出されるような気はしたが、考えるなと、教師の俺が釘を刺す。
その答えは出してはいけない、間違った答えなのだと。


だが、それでも…
消えてはくれない、
「お疲れ様です。」
これだけは聞いていたいという、らしくもない願望。

いつも行くコンビニの、『少し気になる店員』の、あの言葉を。










今日も一日、いつも通りの時間が過ぎていく。


スーツを着て学校へ行き、ガキ共の相手をして実家へと向かう。
そして、いつものように母と妹の小言を聞きながら飯を食べ、あのコンビニへ…。

目的は、タバコと酒とつまみ。

そして、あの店員。

少し前までは無かった項目がそこに加わった。


あの言葉が他の奴に掛けられる場面を見る事が無いように…
自分だけに向けられているのだと、
自惚れた気持ちのまま、店を出れるようにと願いながら、

俺は今日も、コンビニの扉を開く。


扉の向こうにはいつもの変わらない笑顔、そして

「いらっしゃいませ。…お疲れ様です。」


安堵と戸惑いの気持ちをひた隠しにして、その店員の横を通りすぎる。
…と、胸元の名札にある文字が視界に入ってきた。


『南野 蔵馬』


俺が知っているのはただ一つ、この名前だけだ。
それ以外は、正確な歳も、どこの学生なのかも、住んでいる場所も、何が好きなのかも、何も判らない。

だが、それで良い。
知ってしまえば、きっと、もっと…。






俺が知る、唯一のもの。

『南野 蔵馬』

決して口にすることの無いであろうその名前を、深く深く胸に刻み込んで、
俺はいつもの行動を取った。


明日も明後日も…その先も…出来るだけ長く、
このコンビニでの『日常』が繰り返される事を祈って。


end










わはははは!;(もう笑うしかない)

うわーん!難しかったよー!!(T-T)
思えば私、飛影の語り口調での小説(と、呼べるのか判りませんが;)って初めてでした。
何が難しいって、これは飛影を好きな故なのですが、「こんな語り方飛影はしないよ!」と思ったら、もうダメで…なかなか進まないのでございます;

誰かを強く想う飛影を、女々しくなく表現するのが、本当に難しくて…。改めて自分の文章力の無さを痛感しました。
大体のものはかなり前に出来ていたのですが、もう…書いては消して書いては消して…消して消して…;
思った以上に時間がかかってしまいました(^_^;)
でも、今の自分の精一杯で仕上げました。
「こんなもんでいいや!」
なんて気持ちは一っっっっっ切ありません。だって大好きな飛影の事だもの。
そこはご理解頂けたら嬉しいです(^_^;)


飛影は蔵馬より大人(設定上)なので、それなりに経験も積んでいます。(でも自分から求めたのは蔵馬が初めてよ♪)
なので、自分の気持ちが恋愛感情から来るものだと本当は理解してて、でもそれを認めてはいけないと、自分はただ少し気になっているだけだと必死に思い込もうとしている様子を私なりに頑張って書いてみました。
そして、蔵馬くんが気にしていた、どうして晩御飯は買わないのか…その理由もどうにか入れたくて頑張ってみました。前半が何やら説明文臭いのはそのせいかと…(^_^;)すんません…;




ほんの少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

ここまで読んで頂いて本当に有難うございました!


拍手も有難うございます~(*´∀`*)
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プロフィール

舞彩

Author:舞彩
名前/舞彩(マイ)
生年月日/19××年2月3日
出身地/一番人口の少ない県
趣味/飛蔵(蔵飛も少々)のお絵描きやお話し作り。カラオケ。冬限定で編み物。ダイエット(悲しすぎる趣味)
好きなモノ/飛影と蔵馬!!
チョコレート。和菓子。メロンパン。カフェオレ。紅茶。通販雑誌(見るだけってやつ)
嫌いなモノ/カメムシ(殺虫剤で死なない恐ろしい虫!)、カエル、シイタケ、グリーンピース
幽白歴/約22年。昔と変わらず(それ以上?)今もこの作品、そして飛影と蔵馬を愛しています!

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