コンビニ愛(声と名前と溢れる想い②)

『あぁ…。蔵馬、か?』


初めて呼ばれた名前。
しかしそのときめきも、これから嘘を吐くという事実によって、緊張から来る動悸へと変わっていく。


ふう~…。

心の中で一つ、深呼吸。

上擦らないよう願いながら声を出した。


「こんにちは…飛影先生。この前はありがとうございました。」

どうにか普通に発せられた。元気になるようにとアメを貰ったことの御礼も言えた。

『あ、あぁ…。』
耳元から伝わった声は、柔らかな振動と共に脳にまで響き渡り、そのまま心臓へと伝え、そしてそれに応えるかのようにさらに蔵馬の鼓動を早めた。


大好きな、低くて静かな声…。


こんなに近くで聞いたことなんて無い。電話だけど…この声は今、俺だけに届けられてる…。
こんなに嬉しいのに…。


再び嘘を吐く事実に凹みながら話を続ける。
焦って噛まないよう注意をしながら、でも、ボロが出ないようなるべく早口で。


「今日バイトは休みで、浦飯くんや鈴木くんと会う約束をしてたんですけど…浦飯くんから数学の判らないところがあるから教えて欲しいと言われていまして、今日はファミレスに集まって勉強をしようって事になっていました。」

『…そうか…。』

「はい。教えることは僕自身理解しているかどうかの確認にもなるので、勉強になって嬉しいです。
浦飯くんたちにも理解してもらえるよう頑張って教えますので、今日は許して頂けないでしょうか?」


なるほど、優等生らしい丁寧な言い方と理由だ。
だが、
(こいつはホントに嘘をつくのが下手だな…。)
そう飛影が思うほど、蔵馬の声からは緊張がそのまま伝わってきていた。


もちろん、この勉強会の話が幽助の嘘で蔵馬は巻き込まれただけ…ということはハナから判っている。
飛影だって幽助の嘘を見逃してやるつもりもなかったのだが…

『判った…。』
友人の為に、こうも下手くそな嘘を一生懸命吐かれると逆に許してしまいたくなる。


「え…?」
すんなり理解してもらえるとは思ってなかった蔵馬は思わず聞き返してしまう。

(信じて…もらえた…?)
それはそれで心苦しい。

『お前がそこまで一生懸命になるなら…今日のところは勘弁してやる。鈴木も帰してやるから、見てやれ。』


「っ…。」
違う、先生は判ってる。
判った上で、騙されてくれている。

自分の嘘があまりにも下手で聞いてられなかったのだろうか…。
それとも、
呆れられたのだろうか…。

この前自分の事を頑張れって言われたのに…。


言葉が出てこない。


『蔵馬…?聞いてるか?』
飛影の優しい声が胸を締め付ける。


…もう、耐えられない。

蔵馬はちらりと幽助を見た。

幽助は上手くいったのか?と言いたげに笑っている。

その笑顔に多少の罪悪感を感じるも…

「ゆうすけ…ごめん…。」
一言謝罪を述べ、再び電話口へ。


「先生!すみません!!嘘です!!」
素直に嘘を認めて飛影に謝った。

『は?』
電話の向こうで驚く飛影と

「んな!?蔵馬!てめぇ!!」
隣で声を荒げる幽助。


「浦飯君とはこれから遊びに行く予定です!!勉強会なんて予定してません。嘘吐いて申し訳ありませんでした!!」

「蔵馬ぁ!!バカヤロ!!何言いやがんだ!お仕置き補習追加されんだろ!!上手くいってそうだったじゃねーか!」


飛影は電話の向こうでなにやら言い合う二人の様子を黙ったまま聞いている。
あまりの馬鹿正直振りに掛ける言葉もない。

昼間のファミレスで尚も続く小競り合い。

「上手くいってなんかないよ!飛影先生嘘だって判ってるもん!判った上で、だよ!!」

(そのとおりだが…そこはフツー「ラッキー」で良いんじゃ無いのか?;)

「それならそれでラッキーで良いじゃねーか!! 表向きでも信じたんならそれを突き通すだろ!教師なら!!」 」

(それみろ。それが普通だろ。だが その考えもどうかと思うぞ、幽助…;逆手に取りやがって…!)


「そんなのダメだって!先生の優しさを利用するなんて絶対嫌だ!」

「くそ真面目すぎんぞてめぇ!!」

(よく友達になれたもんだな、コイツら…;)
あまりに対照的な二人の会話は端から聞いているとどこか可笑しく、どうやってここまで仲良くなったのか、この二人の中学時代を覗いてみたくなるほどだ。



「だからごめんっ!!」
自分の恋心の為に友人を裏切ってしまった事を律儀に謝り続ける蔵馬。


素直すぎる言葉が堰を切って溢れてくる。
「でも…でも俺には無理だよっ!
…飛影先生にだけは嘘つきな奴だとかダメな奴とか思われなくない!!他の先生ならまだしも!


「…。」

幽助のキョトンとした顔に蔵馬の口が止まる。
二人の間に流れる妙な空気に、何かマズイ事を口走ったのかと不安が過る。


え~と…俺…今何て言った?


頭をフル回転させ、ほんの少し前の記憶を辿る。

が、辿り着くその前に幽助が口を開いた。
「オメー…数学の教師っつーだけで肩入れしすぎだろ…;飛影だけにはって…;つーか、いつの間にそんな仲良くなったんだ?」

「??!!」
幽助の言葉に一気に身体が熱くなる。
途端に甦った今しがたの自分の発言。
そして…

「聞いた?よっぽどその先生が好きなのね~。真っ赤になっちゃって可愛い~。」

「今時珍しいわね。良い先生なのね、きっと。」

そんな主婦たちの会話が耳に入り、ますます顔が赤くなっていく。


「や…あの…深い意味はないんだよ?俺、数学の先生の事、尊敬してるから…だからっ……?!」

必死の弁解も、こうも動揺していては『深い意味があります』と言っているようなもので…。
そして気付いた、電話の向こうにいる、全ての会話を聞いていたであろう想い人の存在。
赤い顔が今度は青くなる。


「あ、あの!すみません!!そんなわけですので!失礼します!!」

慌てて電話の向こうの飛影にそう告げると、強制的に通話を終了した。

そんなわけって…どんなわけだよ…。
なんて、自分の発言に再び後悔しながら…。


でも、どんなに後悔してももう遅い。
口から出した言葉は消えてはくれないのだから。


震える手で幽助にスマホを返す。


もう…穴があったら入りたい…;

顔を手で覆い項垂れる蔵馬。

そんなあまりに落ち込む様子の蔵馬に、
「わーったよ!ワリかったよ!お前がそんなにアイツをソンケーしてるなんて思わなかったからよ、嫌なこと押し付けてごめんな。」
本当に申し訳ないといった表情で素直に謝る幽助。


ここが幽助の良いところだ。
決して真面目では無いけど、彼は『良い人間』

悪いと思ったことは素直に謝るし、相手を許す寛容さや、理解する柔軟さもある。

幽助なら、話しても構わないかもしれない。
この気持ちが尊敬ではなく、恋情からくるものだと。きっと理解して協力してくれるだろう。

蔵馬は思わず言ってしまいそうになった。押し込めておくにはあまりにも苦しい胸の内を。

が、寸でのところで思い止まる。


幽助から聞いた、飛影と歩いていた女性の存在を思い出したのだ。

今この状態で、もしそんな女性の話を聞いたりなんかしたら…。
しばらく立ち直れない。
バイトは明日もあるのに。

取り敢えず、今日の発言の後悔を処理しなければ。


蔵馬は大きく息を吐き、顔を上げた。

「ううん。こっちこそ、役に立てなくてごめん。でも留年は良くないから、今度ホントに勉強会しようね。」

「げっ;マジでやんのか?」

「自分で言い出したんだろ。今日は勘弁してあげるけど、ホントにやるよ。俺は真面目だからね。」


「へいへい」


動揺と後悔を隠していつもの笑顔を作る蔵馬。
その笑顔に多少の違和感を感じつつも、いつもの会話のやり取りに幽助もホッと胸を撫で下ろして、そのまま鈴木が来るのを待った。






そして、電話を突然切られた飛影はというと…。

鈴木のスマホを握り締め、暫し固まっていた。


あいつ…今…何て?


蔵馬が言っていた言葉を思い出し反芻させてみる。

『飛影先生にだけは…』


「……。」

黙ったまま呆然とする飛影に鈴木がおずおずと声を掛ける。

「あの…飛影…?俺帰って良いんか?」

「あ、あぁ、いいぞ。…帰れ。」

心ここにあらずといった感じで鈴木にスマホを返し、帰るよう促した。

自分のデスクに着き、顔を覆い俯く。
頭の中で蔵馬の言葉が繰り返し繰り返し響いていた。


『飛影先生にだけは』

この言葉の意味を考える。
深い意味はないと言ってはいたが、声の様子から酷く動揺していることは明らかだった。
深い意味があると、解釈できる。

ただそれが、
教師としての自分を心から敬っての事なのか、それとも…自分と同じように想っての事なのか。


自分と、同じように…。

「くそ…。」
小さな声で悪態を吐いてもどうしようもなかった。


蔵馬


とうとう呼んでしまった。
名前で呼ぶことなど無いと思っていたのに。
蔵馬の声を耳元で聞いた動揺と、少しの嬉しさで気が緩んだ。


コンビニの奴…そう、言えたら良かったのに。


自分でも判っていた。



蔵馬



名前で呼んでしまうと、抑制していた気持ちが溢れ、自分の中でもう二度と、ただの『コンビニ店員』には戻すことは出来ない事を。

そして、自分のこの気持ちが、恋愛感情であると…まざまざと思い知らされる事も。




…俺はあいつの前で、どれくらい教師としての顔をしていられるだろう…。

あいつが俺を教師として尊敬しているのであれば…この気持ちはただの裏切りでしかないのではないか。



そんな考えが胸に突き刺さり、飛影は暫く動くことが出来ず、ただ机の上で項垂れていた。





to be continued…





◆◆◆◆◆◆◆◆◆

キャ───(*ノдノ)───ァ
は、恥ずかしい!!


ごめんなさい…。最初はただ名前を呼ばせたかっただけなんです!!

でもいろいろ考えていくうちに…こんなことに…。

二人とも女々しくない?!大丈夫かしら?

でも!ですね!!前回から私、毎日毎日この続きをちまちま作成しておりました。
プロローグ同様、悩んで悩んで、書いて消して書いて消して消して…時間掛かった割に大したモノではないかもしれませんが、 私なりに頑張って作りました。


飛影先生と蔵馬くんのピュアな恋模様を、少しでも楽しんで頂けましたら、この上ない幸せでございます .。゚+.(・∀・)゚+.゚


ここまで読んで下さいまして本当に有難うございました!!




オマケ落書き


それでもやっぱり蔵馬くんの言葉は嬉し
くて…
「どうした飛影、風邪か?顔が真っ赤じゃねーか…。

「かまうな…;」
思い出すと赤くなってしまう飛影先生です(*^-^*)





拍手有難うございます!!
めちゃめちゃ嬉しいです~ ♪───O(≧∇≦)O────♪
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プロフィール

舞彩

Author:舞彩
名前/舞彩(マイ)
生年月日/19××年2月3日
出身地/一番人口の少ない県
趣味/飛蔵(蔵飛も少々)のお絵描きやお話し作り。カラオケ。冬限定で編み物。ダイエット(悲しすぎる趣味)
好きなモノ/飛影と蔵馬!!
チョコレート。和菓子。メロンパン。カフェオレ。紅茶。通販雑誌(見るだけってやつ)
嫌いなモノ/カメムシ(殺虫剤で死なない恐ろしい虫!)、カエル、シイタケ、グリーンピース
幽白歴/約22年。昔と変わらず(それ以上?)今もこの作品、そして飛影と蔵馬を愛しています!

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